
夜の23時を回った頃、ふと落ち着かなくなる夜がある。
誰かと話したいわけでも、何か大きな理由があるわけでもない。ただ「少し走りたい」という感覚だけが残る。鍵を手に取りそのままガレージに向かい、エンジンをかけた。
最寄りの入り口から阪神高速の湾岸線に乗る。昼間の混雑が嘘のように引いた直線道路は、タイヤが路面を叩く連続音だけが車内に響く。アクセルを踏み込むでもなく、左車線を淡々と流す。スピードを出す必要はない。ただ一定の速度で遠くの灯りを追いかける時間が、頭の中の雑音を少しずつ削っていく。
大阪港線へ折れ、朝潮橋パーキングエリアに車を寄せる。
自販機で缶コーヒーを買い、眼下に広がる港湾エリアの明かりをぼんやり眺めながら、一口飲む。何か深いことを考えるわけでも、今日一日を振り返るわけでもない。ただ温かい缶の感触と、たまに横を通り過ぎるトラックの排気音を聞いている。
この「何もしない10分間」が、意外と悪くない。
残りのコーヒーを飲み干してゴミ箱に捨て、再びシートに収まる。そのまま環状線へと合流し、ぐるりと半周だけ回って帰路についた。
攻めるような走りをしたいわけでもないし、夜風に当たって黄昏れたいわけでもない。ただ自分のペースで少しだけ移動して、気が済んだらさっさと家に帰る。
特別な夜にする必要はない。一人時間というのは、これくらい素っ気ないほうがちょうどいい。
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